9月 15

【対談】souco ✕ 空 倉庫業界のプライシングの未来は?

今回は、株式会社soucoの代表取締役の中原さんをお招きし、空のCEO松村と私を聞き手に、「倉庫業界のプライシング」について対談を行いました。今後の発展について、貴重なインサイトをいただけましたので、動画と記事にまとめています。

対談の動画は、こちらをご覧ください。

 

株式会社souco 代表取締役 中原久根人 氏 について

慶應義塾大学経済学部卒業。大学卒業後、株式会社いい生活、株式会社iettyなど不動産領域で事業開発を12年経験。不動産領域のデータベース構築と物件マッチング、ポータルサイト運営に精通。2016年、soucoを創業。2017年10月オープンβ版サービス提供開始を経て、2019年6月に正式版サービスの提供を開始。データベース化が進んでいない物流領域で新しいビジネスモデルの構築に挑戦している。2020年現在、登録企業数約1600社(荷主企業と倉庫提供企業の合計)の空き倉庫情報を管理。利用したい事業者とマッチングを開始している。

 

会社名 株式会社 souco
所在地 東京都千代田区麹町1−4−4—2F
設立 2016年7月
URL https://souco.space

 

倉庫業のトレンド 〜提供サービスの多様化〜

現在、倉庫業界では、提供サービスが多岐にわたるようになっています。

伝統的には、倉庫業が担うのは「荷物の保管業務」と「入出庫」でした。しかしこれらは、標準化されやすく付加価値がつけにくい領域です。そのため、倉庫業界の各プレイヤーは、こうした伝統的サービスだけでなく、付加価値のつけやすい新領域に注力しています。

付加価値訴求のためのトレンドとしては、例えば、EC出荷への対応やフルフィルメント業務全般の受託、化粧品への対応などがあります。

筆者追記:
ECでは、小口の荷物を多数の宛先に出荷する対応が必要になります。また、消費者からのオーダーをどれだけ早くピッキングして梱包出荷するかという、出庫に特に力点が置かれます。さらに、ラッピング、ギフトカードの挿入等が必要になるなど、荷物に応じた個別対応が必要になることが多いという特徴もあります。こうしたEコマースの特殊事情を踏まえ、Eコマースに特化した倉庫サービスは高付加価値になります。

フルフィルメント業務は、通信販売やECにおいて、受注から配送までの業務(受注、梱包、在庫管理、発送、受け渡し、代金回収まで)の一連のプロセス全体を指します。倉庫業者は、こうした業務を一括して受託することで、付加価値を上げることができます。

また、化粧品などの包装・表示・加工を外部に委託する場合、委託を受ける倉庫業者は、法律上、化粧品製造許可を取得している必要があります。そうした倉庫業者は限られるため、化粧品製造許可を取得し化粧品対応を行っている業者には競争優位性が生まれます。

倉庫業プライシングの現状と課題

倉庫業の中でプライシングが最も効いてきそうなのは、荷物の保管業務だと思われます。保管業務において、現状では二種類の価格スキームがあります。

1 坪単価型
保管に使用する倉庫の床の坪面積に応じて価格が決定される。保管に使用する面積内でどのように荷物を置くかは、その借主に委ねられる。

2 立米単価型
荷物の大きさに応じて価格が決定される。そのため、倉庫内の立体スペースにできる限り多く荷物を積むことができれば、収益が上昇する。倉庫内での荷物の置き方は倉庫の貸主の工夫次第となる。

現時点での保管業務は、基本的には安売り勝負の価格競争になってしまっています。プライシングを状況に応じて変えるといった戦略はまだとられていません。倉庫業者側にて、保管の仕方を工夫したり、しばらく出庫見込みがない荷物を地方の別の倉庫に移して空きスペースを作ったりする対応により、収益向上の工夫をしているようです。

倉庫業は、契約期間が基本的に3〜5年と長く、価格は固定的で、契約途中の価格変動要素が少ないのが現状です。周辺の倉庫や競合地などの価格相場が可視化されていないことが、プライシング戦略を難しくしています。

倉庫は、最終出荷地からの距離で同心円上に需要が変わるというユニークな特性があります。そのため、例えば依頼元である東京から同距離の千葉・埼玉が競合になることがありますが、こうした遠方の競合間の相場は、支店を多数保有する大企業のネットワーク内の倉庫などでない限りわかりません。

今後のプライシング最適化の可能性

プライシングを最適化していくためには、これまで可視化されていなかった価格、契約の情報など、トランザクションデータを集める必要があります。この点、soucoのような倉庫業界のプラットフォーマーは、トランザクション数が積み上がり、頻度高くかつ多くのデータを集められる強みがあります。

通常、短期で利用するサービスほど、在庫を抱えるリスクやフレキシビリティを提供することの付加価値ゆえに、価格は高くなります。倉庫業でもこの点は同じはずであり、今後、短期間での倉庫利用の場合など、より高単価の保管料形態が生まれてもよいはずです。

これまでの倉庫業は、商慣習として長期にわたる顧客キープにフォーカスしてきました。倉庫の短期提供は、その間、長期契約の顧客を逃してしまうリスクがあり、各社消極的でした。 こうした長期契約中心の業界構造の中で、うまく短期ニーズを受け止めるような枠組みが生まれてくると、業界が変わっていく。soucoはまさにそうした枠組みの一つになっていきたいと考えています。

筆者追記:
倉庫の保管料については、上述した「可視化」の問題点の克服が見えつつあり、需給に応じて価格を変動させるダイナミックプライシングの導入可能性が十分にあると考えられます。ダイナミックプライシングの導入が可能となるためには、

・供給サイドのキャパシティが随時把握可能であること
・需要の予測が可能であること
が必要です。

これまで人力による手作業に依存してきた倉庫は、近時のテクノロジー導入の潮流によって様々な面で「可視化」が進んでいます。

例えば、Warehouse Management System(WMS)の普及がそのひとつです。WMSは、作業者が行う「保管」「荷役」「流通加工」「包装」などの“作業”と、倉庫内にある製品・貨物等の“モノ”を結びつけ、適切に管理することで、業務生産性の向上および標準化を実現し、業務品質を維持向上する役目を担います(こちらの記事を参照)。 一昔前までは、WMS導入は高額投資が必要でしたが、現在は安価なWMSも増え、中小倉庫会社等も含めてWMSの導入が幅広く進みつつあります。

また、ドローンによる在庫等の管理が検討されつつあり、その他の無人搬送車の倉庫内での導入も進んでいます。こうした流れを受け、出庫から入庫までの各工程を無人化する、倉庫全体のスマート化が進展しています。

これらのテクノロジーにより、倉庫内の在庫状況や空きスペースの適時の把握や、過去の入庫データを基にした倉庫の需要予測が可能になりつつあります。そのため、倉庫の保管料等へのダイナミックプライシング導入への下地は着々と整備されていると考えられます。

中原さんの今後のビジョンは?

これまで、倉庫業界は、多少無理してでも顧客ごとにカスタマイズをすることでなんとかして荷主を繋ぎ止める世界であり、提供サービスの「標準化」を進めると収益性が低下すると考えられてきました。そんな中で、soucoは、むしろ「標準化可能なところはどんどんと標準化していくべきで、それによって価値が生まれる」という理念を持っています。

サービス利用者に、「どこの倉庫でも基本的に変わらない」という世界を実現し、物流戦略の柔軟性を提供したい。それにより、倉庫・物流全体を円滑にしていきたいと思っています。


対談で触れた課題のほか、現在、倉庫では、人手不足が深刻化しています。国土交通省の調査では、倉庫業における50代以上の高年層が占める割合は、2017年時点で30%、2030年には35%まで上昇すると予測しており、若年労働者の確保や省力化設備の導入、そのための原資(保管料や荷役料等の適性な売上収益)の確保は不可避です(こちらの記事参照)。

倉庫にダイナミックプライシングを含む適切なプライシング戦略が導入されると、高需要の日・時間帯には保管料等が現状より上昇し、低需要の日・時間帯には保管料が現状より下落するため、緊急性が相対的に低い物品の入庫については低需要の日・時間帯に行われるようになります。その結果、高需要の日・時間帯における労働力等の不足問題の改善が見込まれます。

倉庫の保管料等へのダイナミックプライシングの導入は、逼迫する労働問題の解決、収益・コストの改善を一挙に見込める手段としても、検討に値する領域と思われ、今後の議論の深化が望まれます。

souco中原さん、ご協力ありがとうございました。

TEXT: Hiroshi Watanabe グロービス・キャピタル・パートナーズ インターン(株式会社空の支援中)