7月 13
woman looking at product at grocery store

スーパーマーケットのダイナミックプライシング:食品ロス観点で進む欧州

近年、日本国内でもダイナミックプライシングに関する話題が増えてきました。これまでは航空やホテルといった在庫を翌日に繰り越すことができない一部の業界の収益管理手法とともに発展してきたダイナミックプライシングですが、現在は電子棚札やインターネット、スマートフォンといった周辺技術の整備が進み、新しい領域での活用も現実的になっています。

(画像:Googleトレンド)
(画像:Googleトレンド)

2019年には、ダイナミックプライシングが度々話題となりました。なお、グラフで突出している11月頃は、福岡ソフトバンクホークスが2020年シーズンへのダイナミックプライシング全面展開を発表した時期です。生活者にもダイナミックプライシングの認知が進んだ象徴的な日となりました。

小売業界での話題

家電量販店のビックカメラやノジマがダイナミックプライシングの検討を開始するニュースを目にした方も多いかと思います。この検討を後押ししているのが電子棚札と電子タグです。電子棚札によって価格変更コストの低減、電子タグによって商品管理(いつ、どこに、何が、どの程度流通しているのか)の発達が期待できます。経済産業省による「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」「ドラッグストア スマート化宣言」もあいまって様々な店舗型小売業での検討が始まりました。今後、この領域でのダイナミックプライシングの浸透は電子棚札・電子タグの導入やEC化とともに数年かけて進んでいくものと予想されます。

小売業界のプライシングへの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響

小売業界でのプライシングを考えるにあたっては、新型コロナウイルス感染症に触れないわけにはいきません。ワクチンが市場に出回り収束に向かうまで数年を要すると言われている中、2つの顕在化している問題への対応が急務となっています。

需給の不均衡

マスクや消毒液を始めとした感染症対策用品や巣篭もり需要としてゲーム機の品切れが多発し、未だに高額で取引されている状況です。必要な人に必要なものを届けるための仕組みが必要です。

ソーシャルディスタンス

感染防止を目的として他者との接触を抑制する取り組みが求められている一方で、スーパーマーケットやホームセンターといったコロナ禍においてニーズが増えている一部の小売店舗で混雑が発生しており、ソーシャルディスタンスを十分に確保できていない場合があります。

一時的な需給の不均衡であれば生産体制の拡充によって収束する可能性がありますが、ソーシャルディスタンスの確保は引き続き必要です。ここには来店者数によって価格やインセンティブを動的に変更する「オフピークプライシング」が貢献できる可能性があります。
参考:スーパーマーケット、ドラッグストアのための「オフピークプライシング」の考え方

欧州で進むスーパーマーケットのダイナミックプライシング

欧州では、すでにスーパーマーケットのダイナミックプライシング活用が進んでいます。注目企業の一つがオランダ最大手のスーパーマーケットチェーン Albert Hejin(アルバート・ハイン)です。親会社は、オランダに拠点を置きながら、ヨーロッパやアメリカでスーパーマーケットを中心に展開するAhold Delhaize(アホールド・デレーズ)。英テスコや仏カルフールに比べると日本国内の知名度は劣りますが、デロイトトーマツの「世界の小売業ランキング2020」では世界12位に位置するほどの巨大小売企業です。
※ちなみに日本からはイオンが13位、セブン&アイ・ホールディングスが19位に選出されています。

なかでもAlbert Hejinは、Ahold Delhaizeの本拠地オランダのスーパーマーケットシェアの34.9%を誇る業界最大手です。最大手でありながら、成長戦略にテクノロジー活用が組み込まれており、その一手としてダイナミックプライシングの活用が進められています。タッグを組んだのは「Wasteless」というスタートアップ。食品ロス削減と収益向上を目的としたダイナミックプライシングソリューションを食品小売業者に提供しています。

「Wasteless」の仕組み

Wastelessは、食品の期限に応じて価格を動的に変動させるダイナミックプライシングによって食品ロスを削減します。

Wastelessは、他の小売ソリューションとの連携を前提にしています。

  • スマートフォンや業務用PDAのバーコードリーダーで期限データを収集
  • Wastelessを通じて、在庫管理システムに期限データを同期
  • 電子タグと在庫管理システムによって、店舗内にどの商品がどの程度存在しているのかを収集
  • 食品の期限や曜日、場所と知った複数の要因に基づいてWastelessが機械学習によって価格を算出
  • 電子棚札とPOSに最新の価格を同期


(画像:Wasteless)

Wastelessは、各商品の在庫数や期限に基づいてリアルタイムに値下げを行うことで来店客の購入を促進します。実際には期限が短い商品と通常の商品が混在するため、来店客が重視する要素(価格なのか、新鮮度なのか)によって、必要な人に必要な商品が程よい価格で行き渡ることになります。

WastelessとAlbert Hejinは成果を公に公開していませんが、Wastelessがスペインの別の小売企業と実施した実証実験では、食料ロスを1/3削減しながら、収益を6.3%増加させることに成功したと公開しています。Wastelessはイタリアやベルギーのスーパーマーケットチェーンとの取り組みも発表しており、少なくとも欧州の様々な小売企業との交渉力を持てる程度の一定の成果は出していると判断できます。


(画像:Wasteless)

スーパーマーケットにおける今後の可能性

このような取り組みから、スーパーマーケットのプライシングの進化に必要な3つのポイントが見えてきます。

データリテラシー

スーパーマーケットに限らず、ある事業にダイナミックプライシングを適用する際には、データの量の少なさや既存システムとの接続性の低さといった価格算出以外の課題が見つかることがあります。この種の課題を解消するには、バリューチェーン全体がデータの価値を理解し、それぞれの接続部分における問題を一つずつ解いていく必要があります。

Wastelessの事例のように短期的には食品ロス削減と収益向上を目指しながら、期限データとそれに紐づく購買データが蓄積されることで、新たな視点でのデータ活用も考えていけるでしょう。

CSV(Creating Shared Value), SDGs

ダイナミックプライシングの取り組みは、収益向上だけでなく社会的価値の観点からも考えていく必要があります。特に新型コロナウイルス感染症の影響で「薄利多売」「行列」が難しくなった現在、企業は従業員や地域住民を含めたステークホルダーとの良好な関係構築と収益確保の両立が求められています。これらは一時的な対応ではなく、社会全体の価値観が変容していくことを前提に、企業活動の抜本的な見直しが図られていくでしょう。

ちなみに、食品ロスに限定すると日本では2019年10月に「食品ロスの削減の推進に関する法律」が施行されました。今後日本国内においても食品ロス削減に向けたルールやインセンティブの整備が進むことが予想されます。
※日本の食品ロス事情についてはこの記事で詳しく解説されています。

パートナーシップ

バリューチェーンが複雑なスーパーマーケットにおいては、電子棚札の企業、POSや在庫管理システムの企業といった複数の企業との連携が欠かせません。実際にWastelessでも、電子棚札を提供するPricer、小売システムを提供するNCRと連携しながら検証を進めているケースがあります。上述したデータリテラシーとCSVの2点が揃い、パートナー企業や顧客の利が一致することで、一気に変化が起こせる可能性があります。まさに今こそ、そのタイミングなのかもしれません。

TEXT: 村田 剛士 株式会社空 広報・マーケティング
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[参考]

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