10月 08

これからのモビリティとプライシング【考察・モビリティ進化論 後編】

この記事は、モビリティや駐車場の未来とプライシングについて考察するモビリティ進化論シリーズの一部です。

あるべきモビリティのプライシング像

ここからPriceTechを扱う空として、本題に入っていきます。モビリティのあるべきプライシングに対し、何を変革する必要があるのでしょうか。

モビリティ事業者は以下の4点を実行する必要があると考えます。

  1. 全社戦略として「ユーザーのオンラインでの移動体験のデザイン」にコミットする
  2. 経路検索・オンライン予約/決済への投資
  3. 変動的プライシングへの投資および社内体制の構築
  4. モビリティ外も含めたユーザー体験の構想

全社戦略として「ユーザーのオンラインの移動体験」をデザイン

ここまでで記載の通り、今後モビリティにおいてユーザーへ働きかけるためには、オフラインではなく「オンラインの移動体験」を作りこむ必要が強まります。従ってまず重要なことは、経営層が「ユーザーのオンラインでの移動体験のデザイン」にコミットし、トップダウンで事業を変革する姿勢を示すことです。

では具体施策は何があるでしょうか。

経路検索・予約・決済の拡充で足固め

まず、レベル1~2「路線検索・予約・決済」を充実させる必要があります。具体的には以下の事項となります。

レベル1「経路検索」
経路検索アプリへの情報提供の精度や頻度を向上:常に正確な情報を頻度高く提供し、ユーザーがアプリで料金や稼働率を把握できる状況を作ります

レベル2「予約・決済」
キャッシュレスアプリの導入:キャッシュレス決済が可能となるアプリを導入します(ハードウェアより投資コスト安の可能性が高い)
予約制システムの導入:ユーザーの利用状況を把握するために予約制システムを導入します

変動的なプライシングへの投資

レベル3「価格調整」への投資および社内体制の構築です。

価格が頻繁に変わる世界では、こまめな料金変更により機会損失を最小限に抑えることが出来る事業者が勝つことになります。しかしながら変動的なプライシングは簡単に達成はできません。例えばコインパーキング事業者においては、料金変更のための現地調査、料金検討と社内決済、土地オーナーへの説明、現地看板の変更と非常に多くのステップが存在しており、高頻度での価格変更は現状困難です。

そこで変動的なプライシングを達成するための重要な点は以下の3つです。

  1. プライシングのデータ化とシステム上の管理
    高頻度の料金変更下ではの頻度が上がると人の力だけでは料金を管理しきれなくなります。従って料金をデータ化した上で、共通システム上で社員が管理する必要があります
  2. プライシングのルール化
    今まで頼っていた「勘と経験」は変動的なプライシングでは通用しません。したがってプライシングのルールを確立する必要があります
  3. プライシングの業務プロセスの確立
    プライシング方法を大幅に変えることに伴い、業務プロセスを再度確立する必要があります。誰がいつ何を実施するのか、責任者は誰か、業務プロセスとRACI※を確立する必要があります
    ※ RACI:業務フローごとに実行責任者・説明責任者・協業先・報告先を明確にするフレームワーク

弊社はこれを可能とするご支援をさせて頂いております(次章で詳しく説明します)。

モビリティ外との繋ぎこみ… プライシングの目的は何か

最後にレベル4「都市計画」にあたるモビリティ外も含めたユーザー体験の構想です。

もし読者の皆様の企業がモビリティ事業以外にも幅広く手がける場合、実はこの構想こそが最も肝になる場合があります。なぜならばこれはプライシングの「目的」に当たる部分だからです。モビリティ事業単体ではプライシングの目的は売上向上や機会損失防止となると思いますが、仮にモビリティ事業を一つのパーツとしてまちづくり全体をデザインする場合は、街全体で「誰に」「何を」「どこで」してもらうか、そのためのモビリティの位置づけは何か、プライシングをどのようにすべきか、という発想に変わってきます。

弊社は主に「3. 変動的プライシングへの投資および社内体制の構築」と「4. モビリティ外も含めたユーザー体験の構想」に関してご支援を提供しております。最後にその内容を紹介させて頂ければ幸いです。

あるべきプライシングに向けて空がご支援出来ること

それでは読者の皆様の会社が今後変動的なプライシングに移行できるよう、弊社がサポートできる内容をご紹介していきたいと思います。一言でいうと弊社が出来ることは「変動的な価格設定を可能にするプライシングシステムの構築」です。

前段でご紹介しました変動的なプライシングを行うためのポイントそれぞれに対して、弊社のご支援内容を紹介します。

  1. プライシングのデータ化とシステム上の管理
  2. プライシングのルール化
  3. プライシングの業務プロセスの確立

プライシングのデータ化とシステム上の管理
→プライシングシステムの構築

全ての料金設定を一元的に管理できるシステムの構築となります。既存の精算システムや予約管理システムと連携し、プライシングシステム上での価格設定が可能となります。

また料金を決定する際に必要な情報がダッシュボードに集約されます。例えば予約制の場合は、過去の販売実績に加え、現状のブッキングカーブなどの情報を表示されます。業界や個社ごとに料金決定に必要となる情報を特定し、ダッシュボードに集約します。

既存のシステム上でも価格変更は可能ですが、多くの場合、1日に何回も頻繁に価格を変えることを前提とした仕様になっていません。弊社のプライシングシステムを使うとより容易に頻繁な価格変更ができるようになります。

弊社では詳細の公表はしておりませんが、既にモビリティの領域でプライシングシステムの構築実績を有します。

プライシングのルール化
→機械学習(自動)とルール(手動)を組み合わせたプライシングルール

変動的なプライシング下における値付けのルールを明示化し、プライシングシステムに組み込む形となります。

ルールを決めるには、まずプライシングの目的を明確にする必要があります。たとえば「移動後のユーザーの行動までデザインする」のであれば顧客属性情報を組み合わせる必要がありますし、「競合に対抗した値付けで利益折半を狙う」のであれば競合価格情報を組み合わせる必要があります。そこで特定された必要なデータに関して収集・整理する体制を構築します。

その上で、プライシングルールを定式化していきます。ルールは需要の推移に合わせて売値を上下させることで決まります。簡単に言えば、使いたい人が多い場合は売値を上げ、使いたい人が少ない場合は売値を下げる仕組みを作ります。

モビリティに対する需要(販売数)の基本的な測り方は「需要の価格弾力性」という経済学の概念となります。といっても難しいものではなく、「値上げ・値下げと販売数の増減の関係性」を指します。

ただしここでよくある誤解について述べておきます。それは「AIがプライシングをしてくれて売上がガンガン上がる」というものです。AIは「AI vs. 人間」や「AIによって仕事を奪われる」など、人間との二元論で語られがちですが、そもそもAIは人間を取って代わる万能選手ではなく、二者が協力して事業を変革する必要があるものです。

したがってプライシングのルールを構築する際は、今まで人間が行ってきたプライシングを定式化することを基本としつつ、AIが得意とする分野はAIに任せるという方式を取ります。人間が主体的にルールの手綱を握ることにより、AIが対応出来ない事態(例えば新型コロナで政策や市況が大きく変わる状況下での需要予測はAIには不可能です)にも対応出来るプライシングルールが出来るのです。

プライシングの業務プロセスの確立
→現場のオペレーションを提案・変革

プライシングシステム及びプライシングルールは作るだけでは不十分です。いずれも手綱を握るのは人間であり、機械ではありません。したがってシステムやルールを運用する現場のオペレーションを構築する必要があります

弊社はシステム開発の前に、コンサルティングチームが事業者の現場に入り込み、現状の業務プロセスや課題などを整理します。その後、事業者の現場の皆様と伴走しながら新たなプライシングの仕組みを作ります。プライシングシステムの仕様やUI、プライシングルールの構築も弊社が一方的に提案をするわけではなく、現場の方々とのディスカッションを通じて作り上げていきます。

またプライシングシステムの運用が開始した後も、軌道に乗るまで弊社が継続的にサポートを実施します。モビリティ領域における変動的なプライシングは依然黎明期であり、事例が多く存在するわけではありません。弊社は創業以来取り組んできたホテル業界でのカスタマーサクセスの知見を活かし、実際の業務のオペレーションまで含めてサポートすることが可能です。

最後に

ここまでモビリティのプライシングの将来像と求められること、弊社がサポートできる内容を紹介してきました。

ここで冒頭の問いに戻りましょう。

  • あなたの会社は10年後、どのような「移動体験」をユーザーに提供していると思いますか?
  • その未来に向けてあなたの会社は何に対して投資をすれば良いのでしょうか?

ここまで読み進めて頂いた皆様には、変動的なプライシングが「移動体験」の一部となっていること、そしてモビリティ領域で勝つためにはプライシングが必要な投資であることが伝わったかと存じます。是非プライシングに関してお気軽にご相談を頂ければ幸いです。

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TEXT:水野隼輔 株式会社空 モビリティ事業開発責任者