9月 15

家電量販店のDXとダイナミックプライシング

先日、家電量販店大手のビックカメラが電子棚札の全店舗導入を発表しました。値札交換業務の削減やオンラインストアとの連携強化に加え、ダイナミックプライシング強化を進めていくとのことです。

出典:ビックカメラ決算説明会資料

家電量販店ではかねてよりAmazonをはじめとしたEC勢との競争が激化しており、実店舗で商品を確かめた後にECで購入されてしまう「ショールーミング」への対応が既存家電量販店の課題となっていました。

この流れはAmazonの本拠地USでも同様で、2010年代前半から家電量販店が様々な形で対応を進めてきました。例えば、小売大手ウォルマートはデジタル部門「Walmart Labs」の規模を拡大する等のデジタル投資を進めたり、ウォルマートや家電量販店大手ベストバイはオンライン販売でのダイナミックプライシングを活用したりすることで、売上を取り戻してきました。

中でもベストバイは2017年に電子棚札の導入を開始します。まずは60店舗で試用し、2018年には150店舗まで拡大。その後、2020年内に680店舗まで拡大することを発表しています。新型コロナウイルス感染症の影響で展開の一部見送りや遅延が発生しているものの、本格展開に向けた投資を着実に進めていることには間違いありません。

ベストバイの再興戦略:Building the New Blue

しかしながら、これらの取り組みはベストバイの再興戦略のごく一部に過ぎません。EC勢の台頭に遅れをとっていたベストバイは、2013年から「Renew Blue」、2018年からは「Building the New Blue」という独自の再興戦略を押し進めた結果、2013年に赤字だった営業利益は2018年には19億ドル(前年比3.1%増)まで回復しています。

Renew Blueは、2012年に経営再建のプロだったヒューバート・ジョリー氏が就任してまもなく発表されました。人員削減や不採算店舗の閉鎖、欧州事業の撤退といったコスト削減とサービス改善を中心としたまさに経営再建を目的としたものです。

加えて、プライス・マッチング・ポリシーと呼ばれる最低価格保証制度を開始し、ベストバイなら安く買えるという価格イメージによって脱ショールーミングを図ります。また、店舗内にメーカーから出店してもらうことによる利益の強化、スタッフのサービス品質強化への投資、配送サービスの改善等への投資を進め、業績回復を遂げました。

そして2018年にはBuilding the New Blueと呼ばれる新戦略を開始します。戦略の主題をデジタルトランスフォーメーションとして、データの蓄積やMLを中心としたテクノロジーの実装、デジタルマーケティングの展開に着手。顧客プロファイルに基づいて施策を展開することで、顧客体験の向上に取り組んでいます。

電子棚札導入は、これら一つひとつの打ち手によって成果を収めてきた戦略から広がる次の一手のひとつに過ぎません。今後、電子棚札に加えデータ活用基盤が整うことで、ダイナミックプライシングからパーソナルプライシング、O2OからOMOといった新しい販売の形が実現する可能性があります。

国内家電量販店でのDXとダイナミックプライシングの可能性

国内では、先にご紹介したビックカメラのほか、ノジマやエディオンが電子棚札の導入を進めています。

中でもビックカメラは売上規模も大きい分、業界へのインパクトが大きいです。ECへの先行投資も進んでおり、新型コロナウイルスによってECでの購買が増えることが予想される今、この先行投資が今後大きな差を生みそうです。

また、ビックカメラはEC/アプリと店舗間の連携を強化することを公言しています。EC/アプリと店舗双方の膨大なデータを武器に、ダイナミックプライシングやデジタルマーケティングに関する取り組みを、競合に先駆けて実行する土壌が着々と整っています

出典:ビックカメラ決算説明会資料

全店舗に導入するという電子棚札によって家電量販店での体験がどのように変化するのか注目です。

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参考